ノクターン
53

招待客も集まって チャペルに移動する。

式まで少しの時間 ご挨拶をしたり 写真を撮ったり。

みんな 軽井沢の自然と 非現実的な建物に感動している。
 

「そろそろお時間です。礼拝堂にどうぞ。」

と参列者は 先に席に着く。



入口で母が 私のベールを前に下ろす。

父と私は バージンロードにむかい


智くんは 祭壇に進む。



静かな水音の中 父が
 
「行くよ。」と小さく 声を掛ける。
 


バージンロードは 参列席左側の上部を ぐるりと回っていて。

私達の姿が見えると 静かな歓声が聞こえる。



父はゆっくりと 私の前を歩く。

私は一定の距離で 後に付いて行く。

思ったよりも長いその道は やっぱり涙を溢れさせる。


父の背中に たくさんの思い出が写って。
 

チャペルの入り口からは 父と腕を組んで進む。



智くんにたどり着き 父は私を智くんに委ねる。



お互いが深い礼をして。




私は、ベールの中で 静かに涙を流していた。
 

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