ノクターン

朝の高速道路は 空いていて。

予定よりも 少し早めに到着する。
 

「本日は、おめでとうございます。」

係の方に迎えられ 私はすぐに支度に入る。
 

ヘアメイクは 写真の時よりも ずっと丁寧で。

一日中、崩れないように 下地からしっかり塗られていく。


1時間近くで 準備ができて 花嫁控室に移動する。
 


「わあ、麻有ちゃん。綺麗よ。」

中には 父と母しかいなかった。
 
「ありがとう。美奈ちゃんは、まだ?」

私は 微笑んで聞く。
 
「まだみたい。何回見ても良いわね。でも今日が 一番綺麗よ。」

母は嬉しそうに 高揚している。
 


「麻有子は パパ似だからね。」

父は モーニング姿で。

24才でパパになった父は まだ40代。

若々しくて なかなか良い。
 

「パパも素敵よ。新郎さんと間違えられるかも。」私が言うと
 
「だろう。」と得意な顔で 母を見た。
 


「パパ、ママ。長い間、ありがとう。私の年には もうパパとママだったんだね。本当に 感謝しているよ。」

私は 泣かないで言えた。
 


「よせよ。泣かせるな。これから大仕事があるんだから。」

父も 明るく言ってくれる。 
 
「パパ、バージンロードを歩くから 緊張しているのよ。」と母は笑い
 


「でも本当に良かったわ。麻有ちゃんのママになれて。」

急にしんみりした事を言う。
 


「ふう。帯きつい。」

ノックと同時に 妹が入ってくる。
 
「わあ。お姉ちゃん 綺麗。」



賑やかな声に 涙は消えていった。

 
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