ノクターン
どれくらいの時間、そうしていたのだろうか。
長いような、短いような。
智くんは、徐々に腕の力を緩めると 私の体を離した。
「止められなくなりそうだよ。」
と智くんは照れたように言う。
私達は、また海の方を向いて話しはじめる。
「智くん、聞いていいかな。智くんは 今付き合っている人、いないの?」
遠慮がちに どうしても知りたかった事を聞いてみる。
「今はいないよ。この年まで何もなかったわけじゃないけどね。2年前に 付き合っていた彼女と別れてからは ひとりだよ。」
智くんは、誠実に答えてくれる。
「どうして別れてしまったの?」
「何となくしっくりこないんだよね。誰と付き合っても。俺は恋愛に向かないのかなと思って。最近は無理に誰かと付き合う事をやめていたんだ。」
まるで私の気持ちを言い当てたような言葉に、私は驚く。
「私もそう。何か違う、こんなものなのかなって、ずっと思っていた。」
「麻有ちゃんの彼ってどんな人?」
「大学のサークルの一年先輩。」
「学生の頃から付き合っているの?」
「ううん。もうすぐ一年かな。でも、彼は仕事が忙しくて 月に一度くらいしか会ってないの。私、そういうことも もっと会いたいとか、寂しいとか思えなくて。」
「どんな人?」
「いい人だよ、明るくて大らかで。付き合っているうちに、好きになれるかなって思っていたけれど。ずっと違和感があったの。」
「妬けるなあ。」
智くんはそう言って、私の肩を抱き寄せた。
「今日、智くんに会ってわかったの。私、ずっと智くんを待っていたんだと思う。」
「俺も。麻有ちゃんじゃないとダメだ。もう離したくないよ。」
智くんは 私の髪に顔を寄せた。
甘い夜だった。
遠く輝くイルミネーションも、
微かな水音も、潮の香りも
すべてが愛おしいと思った。