ノクターン
お母様の話しに 私はだんだん引き込まれていく。
「麻有ちゃん。結婚って 支え合える相手としないと駄目だと思うの。家柄とか、そんな事関係ないのよ。」
お母様は、真っ直ぐ私を見て言った。
「最近の智之見ているとわかるわ。あの子は なんか所在無げな所があって。気難しい子じゃないんだけど、何を考えているのかなって思うような。それが最近 とても素直になったのよ。麻有ちゃんのおかげだわ。」
私はだんだん涙があふれてくる。
「だから、何も心配しないで。自信を持って智之と結婚してほしいの。気後れしたり、卑屈になったりしないでね。麻有ちゃんは麻有ちゃんのままでいいの。」
私は、お母様の 人間としての大きさに感動していた。
「軽井沢のご両親、とても立派な方よ。仕事に誠意を感じたわ。だから、麻有ちゃんも大丈夫よ。あのご両親の子供である事を誇りに思ってね。
あの頃、智之連れて軽井沢に行く事は、私の息抜きだったのよ。智之と麻有ちゃんが遊んでいる姿、なんだか可愛くてね。大好きだったの。だから、私 本当にうれしいの。」
私は涙に ハンカチで顔をおおう。
こんなお母様に 育てられた智くんだから、素敵な人なのだ。
私の心は、感謝の気持ちしかなかった。
「一つだけ、麻有ちゃんにお願いがあるの。智之、今は会社勤めで構わないけれど、いつか お兄ちゃんが智之を必要としたら、お父さんの会社を 手伝ってほしいと思っているの。お父さんは 二人の息子たちに会社を残したい、ってずっと考えているから。そのために頑張ってきたわけだし。
お父さんが現役のうちに 外で色々経験して、智之にはそれを生かしてほしいの。いつかそうなって、生活環境が変わってしまっても 麻有ちゃん許してね。」
お母様の長い話しの後、私は涙と感動を押さえてやっと言う。
「お母様、ありがとうございます。大切なお話し聞かせて頂いて。有難いお言葉も。
私、今日 お母様から連絡頂いた時、智くんから身を引いてって 言われると思っていました。私、まだまだ 何も見えていなくて。私の好きになった智くんの、智くんを育てたご両親なのに。信じることができなくて。ごめんなさい。
こんな私を認めて下さって、本当にありがとうございます。ずっと智くんと支え合っていけるように、努力します。」
感謝と感動で胸が熱くなる。
私の心にずっとあった 小さなシコリのような物が 柔らかく溶けていくのを感じた。