ノクターン

食事の後、アパートに戻ると 私は母に電話をかけた。

智くんは 近くで聞いている。
 

『あら、麻有ちゃん めずらしいわね。』電話口の母は いつもと変わらない声で。
 
『ねえ、ママ。今週の土曜か日曜って パパとママ、家にいる?』
 
『居るわ。どうしたの?帰ってくるの?』
 
『うん。パパとママに 会ってほしい人がいるの。私、結婚することになると思う。その人 連れて行くから。』
 

『やだ、麻有ちゃん 急にそんな事言われても。部屋、片付けたり準備しないと。』

母の反応は、平和過ぎて笑ってしまう。
 
『大丈夫よ、いつもの通りで。じゃあ、土曜日に行くから。パパにも言っておいてね。』
 
『パパ、驚くわ、きっと。』 
 

どんな人なの、と聞きたがる母を制して通話を終える。
 


「智くん、土曜日にお願いします。母が、部屋を片付けないと、って言っていたわ。」

智くんを見て言うと
 
「麻有ちゃんが “ ママ ” って言うの 可愛かった。」

と智くんは 私を抱き寄せた。

私も智くんに抱き付いていく。


智くんと抱き合うことは 心を落ち着かせてくれる。

智くん以外の誰に抱かれても、そんな風に思ったことはなかった。

 
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