屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜





―――― そんな今、何故


こんな事を思い出すのか
自分でも 不思議だった






初めて 人と 殴り合いをしたのは
高校に入学した帰り道だったと思う




帰りの路上で"目付きが悪い"と
いきなり数人に絡まれて


自覚はしていたから、頭を下げて謝り


しかしそれすら気に入らないと
ビルの物影まで、引っ張って行かれた




けれど


理不尽に殴られる事への恐怖は
いつの頃からか、完全に麻痺していたし


何しろ、買ったばかりのCDを
足で割られた事にも頭に来て




――― 妙に冷静な気持ちで


血まみれで地面に倒れている
奴らの身体を眺めていたら




助っ人に来てくれたらしき
見知らぬ男性に声をかけられ
一緒に走って、その場から逃げた


二人 立ち寄った喫茶店で
いきなり武道を奨められたのもその時






だから、あの時だって ――――




やれた筈なんだ


倉庫裏の、あの時みたいに




でも、拳が凶器になる事


――― それもぼくは、知っていたんだ










"女の子"


だから 一瞬 躊躇した


佐伯は、ナイフを持って立っていたのに




結局


変わらないんだ


あの頃と






”守りたい”




”一緒に生きたい”






こうやって ただ


地面をはいずり回り




ただ やみくもにあがいて


覆い被さる事しか出来ない ―――







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