縁の下の恋


一理の胸の中に…




あの初めて見たリョウが昨日のことのように甦ってきた。



会場の雰囲気とあの独特な照明に思わず心が奪われてしまったあの時…



あんな沢山のファン達の中から一理を見つけ出してくれたリョウを…



あの日が無かったらリョウを真っすぐに見ることはしなかった。



乙女の祈りが終わりどれ程一理は固まって居たのか、気付けば回りの人達が一斉に一理を心配そうに見つめていることに気がついた。



「ああっ…どうもすみません!ええっと、あの…どこまで説明しましたか?ああ、皆さんどうぞリラックスして…ああっ」



そこで初めて工場長が声を掛けてきた。



「今まで見たことのない松平さんを見させてもらいましたよ。よほど思い入れの強いピアニストなんでしょう?素人の我々から見ても素晴らしいピアニストだと思いますよ。今度はもっと大きな会場でしっかり聴いてみたいですね」



「ああっ、はいっそうですね。上手く説明出来なかったことが残念ですが…そう思っていただけて嬉しいです。」



そう言いながらも耳から入ってくるリョウの演奏が体中を支配している一理であった。
< 267 / 271 >

この作品をシェア

pagetop