王子様に恋をした
空気が読めない残念な年上同期からの誘いを断った私は、真っ直ぐ自宅アパートへ帰る。

荷物を床に置きソファに身体を投げ出し、天井を仰ぎ見て大きく息を吐き出した。

帰り道、何度かスマホを確認したが、竜二さんからのものは全く無かった。

「寂しい…」

誰も居ない部屋の中に私の呟きが消えていった。

私はSNSにアカウントを作って、この寂しい気持ちを呟いてみる事にしたのだ。

『初めまして、AKOです。始めて呟いてみることにしました。よろしくお願いいたします(*´︶`*)』

暫くすると、色んな人から挨拶が来て、私をフォローしてくれる様になっていた。

嬉しい!リプライすれば返ってくるなんて、なんて素敵な世界なの?

私は寂しさを紛らわせる様に、SNSの世界に身を投じた。



『彼が連絡をくれない』
『私から連絡しないと彼からは何もない』
『寂しい』
『私は彼が大好きなのにな』

次々に呟くと、それ等に反応が返ってくる事が嬉しかった。

その日の夜は、久しぶりにぐっすり眠る事が出来た。

朝起きて朝食を作り、それを呟いてみた。

元々料理は大好きだから、
『美味しそう!』
『料理好きなの?』
『女子力高いんだね!』
と返ってくるとますます嬉しくなった。

会社に持っていくお弁当の写真

見上げた空や花の写真

『今日は彼から連絡が来て嬉しい』
『優しい彼が大好き』
『Xmasは彼と過ごして幸せだった』
『彼から素敵なプレゼントを貰えた』
『私の料理を美味しいと言って嬉しそうに食べてくれた』

本当は違うのだけれど…全然連絡なんて来てないし、クリぼっちだったけど…

でもそんな事は関係ない!だってSNSの中の呟きが本当なのか嘘なのかなんて、誰も判断出来ないのだから。

呟きを重ねる度に、私は少しずつ話を盛る様になり、それ等に反応があると、本当に身に起こっている気持ちにもなっていった。

私はすっかり悲劇のヒロインのようなキャラクターを作りつつある事に全く気付く事無く、いつしかどんどん深みに嵌っていき、ある時は【大好きな彼から放っておかれている可哀想なAKO】だったし、またある時は【彼から愛されているAKO】だった。
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