戀のウタ

Chaser

 その日、白河愁一が巡視を終えて派出所に戻ると先輩にあたる巡査が彼を呼んだ。


 見るからに学生時代は運動部だったと思わせるがっしりとした体格の先輩巡査は森川といい、白河よりも5歳年上だ。
 この派出所内では白河と年が近いのでよく話をする。

 しかしこうやって呼ぶ時は大概下らない内容で昨日のテレビの話だったりスポーツ新聞の話題だったり…業務に関係の無い話が殆どだ。

 だが新米の自分の面倒を見、先輩として振る舞う人間である以上、警察という『縦社会』を考えても差し障りない人間関係は守らないといけない。
 白河はそう思うと大人しく呼び掛けに応じた。


「なんですか?また深夜のお笑い番組の話なら――」

「そうじゃねーよ。お前さんに管警局から呼び出しが来たからその伝言だ」

「管警局…からですか?警察本部でなく?」

 またいつものような話かと白河は愛想笑いを作って先輩のデスクに行ったが意外な答えに目を瞬かせて驚いた。


 都道府県毎の本部である警察本部でなくその上の地方機関である管警局――管区警察局からの呼び出しなんてまだまだ新米である白河には想像もつかない。

 何事かという疑問を隠さない白河の表情に森川は先程の伝言に補足する言葉を探した。

 言葉を探すついでに日報を書いていた手を止め、くるりと器用にボールペンを回す。

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