眠り姫は王子に愛される





「眠れませんでしたか?」

「怖い夢を見ちゃったせいで起きちゃって…しかも、志緒も居ないし…」

「あら、志緒様は大丈夫ですが、眠れないのは良くないことでございますね。ココアでもお飲みになりますか?」



優しい提案に飛びつくように頷いて、リビングまで移動する。


誘われるままにココアを淹れてもらい、心を落ち着けた。温かいココアを喉に通すと、身体の内側が温まる。


知らないうちに強張っていた身体の力が抜けていく。


今日は1日を通して散々恐怖に振り回された日だった。ほぅ、と一息ついて、窓から見える月をぼんやりと見つめる。



「今日は満月ですね」



確かに明るく光る月は綺麗に丸をかたどっている。満月の夜は不思議なことが起こりやすいとよく言うけれど、今日もそれだったのだろうか。


結局は私が勝手に怖がっていただけなのに、思い出すと不思議なことはいくつかあったように思う。
決して、信じてはないけれど。信じてしまったら怖くなるから信じないけれど。




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