授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
とにかく細かい所を掃除しよう、まずは窓を開けて……と。

錆び錆びのサッシが引っかかって窓を開けるにも一苦労だ。

「あ~固いな、ふんっ!」

思い切り力を込めてバン!と開けた瞬間。

「きゃああっ!」

なにやら黒い小さな物体がボトリと頭の上に落ちてきて、奇声をあげながら振り払うと一匹の虫がブーンと外に飛んでいった。

な、なにあれ、まさか……ゴキ、いやいや、ちゃんと見たわけじゃないし! 気のせい気のせい!

ひとつ深呼吸をして気持ちを整えると、温かな春の風が緩やかにそよいだ。

あ、あれは……。

窓から少し身を乗り出すと、墨田川の向こうにスカイツリーが見えた。

ずっと窓もカーテンも閉め切っていた暗い部屋に太陽の光が優しく照らしだす。日当たりもいいし、人が住むことでこの部屋も生きてくる。

ベーカリーカマチでの仕事は早速明日からお願いされている。会社から必要のない人材だと言われてリストラされたけど、新しい生活の中でどこまで自分の可能性が試せるか期待と不安が入り混じった気持ちで私は掃除に取り掛かった――。
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