授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
あんな堅物そうな知りもしない人となんか嫌!と声に出してしまいそうになり唇を噛んだら、ついに涙が零れ落ちた。ひと粒だけ落ちてしまったそれを咄嗟に手の甲で拭う。

「安心しろ、板垣はいい男だ。人としてもな。きっとお前を幸せにしてくれると信じている。彼がお前の傍にいれば私も安心だ」

「そういう問題じゃないの! どうしてそんなこと勝手にお父さんが決めるの!? お父さんの安心のために板垣さんと結婚しないといけないの? 私の気持ちなんて全然考えてない!」

今まで押しとどめていた感情が抑えきれなくなり、堰を切ったように私は声を荒げた。

「そうじゃない、私はお前のことを思って――」

「お父さんの弁護士嫌いを私にまで押し付けないで! 自分が安心したいだけでょ!? 私、もう二十五だよ? 自分のことは自分で決めたいし子どもじゃないのっ!」

今までこんなふうに父に怒りをぶちまけたことはなかった。初めてかもしれない。そんな私に父は驚いて目を丸くしている。

「板垣さんとは結婚しないから!」

紙袋に入ったあんパンをひったくるようにして立ちあがる。

「待ちなさい! 菜穂!」

声をあげて私を呼び止める父を無視し、私は居た堪れなくなってパァンと勢いよく襖を開けると逃げ出すように居間を飛び出した。
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