授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「菜穂さん、そのドレス似合ってますよ。すごく綺麗だ」

展望デッキにはプールやちょっとしたバーカウンターなどがあり、着飾った人たちがグラスを片手にちらほら見受けられるだけで、船内より人は少ない。

「そうですか? あまりこういう色は着ないんですけど……ありがとうございます」

黒川さんにそう言ってもらえたら嬉しかったのに。

そう思うと声のトーンも無意識に沈む。

気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸すると、冷えた夜の海風がストールの生地を通って肌寒く感じた。

「少し出航時間が遅れるみたいですね。まだ来賓の方々が揃ってないのかな。けど、おかげでこうして二人きりで話せる時間ができました」

手すりに両肘をつき、暗くて見えない水平線に向かって板垣さんは照れたように笑った。

「二人きりで話せる時間なんて、パーティーが終わってからでもいくらでもあるでしょう?」

「そうですね。でも、俺は欲張りな男だから、パーティーが始まる前でも後でも少しでも時間があれば、あなたと二人でいたいんです。あまり人気のない所でね」

半分ヤケになって敢えて突っかかる口調で言ったつもりだったのに、板垣さんは顔色ひとつ変えず穏やかな表情を浮かべていた。余裕がないのは自分だけ。そう思うとなんだか苛立ちが募る。
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