授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「あ、お母さーん、菜穂ったらねぇ、黒川先生のこと好きになっちゃったみたい」

「はっ!? ちょ、な、なに言って――」

聖子はやっぱり心の友、だなんて思ってほっこりしていた数秒前に戻って撤回したい。

確かにステキな人だとは思ったけど、好きになっちゃったなんてひとことも言ってないし!

「あら、そうなの? 黒川先生ライバル多いわよ~。けど、菜穂ちゃんのことならおばちゃん応援しちゃう!」

「菜穂、私も応援しちゃう!」

あ、あのねぇ、この親子はほんとに……。

絶対面白がってる!

はぁ、とため息をついていると弥生さんがごそごそとなにやら紙袋を手渡してきた。

「これ、店が終わったらでいいから坂田先生の事務所へお裾分け持って行ってちょうだい、忙しくて食事するのも忘れちゃう人たちだから」

紙袋の中身を見ると、コッペパンやチョココロネ、メロンパンなどいろんな種類のパンが五、六個入っていた。袋の中からふわっと香る香ばしいパンの匂いに思わす生唾を飲み込んだ。

「わかりました。それで坂田先生の事務所っていうのは……」

「この店出て右にまっすぐ行った所に交差点があるんだけど、そこの角にあるビルの三階よ。頑張ってね」

聖子がなにやら意味深に笑ってポンと肩を叩く。

「う、うん」

頑張る? この店出て右に行った所の交差点に行くだけなのに? いくら方向音痴な私でもそのくらいはわかるよ……。

私は聖子の言った「頑張って」の意味の答えを、頭の片隅でぼんやりと考えるのだった。
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