授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
頭の上から声がして、顔をあげるとずっと横にいてくれた黒川さんと目が合った。

「蒲池さん、彼女のこと俺に任せてもらっても?」

それを聞いた聖子は無言で力強くコクコクと何度も頷いている。

「菜穂ちゃん、怖い思いをさせてごめんなさい。勝手口の鍵、もう老朽化しててね、空き巣のこともあったし、ちょうど二重ロックの頑丈なやつを注文してたところだったのよ。けど……まさか、その前に空き巣に入られるなんて。店がどうなっても菜穂ちゃんがとにかく無事で本当によかったわ」

弥生さんがそっと人差し指で目尻を拭う。今回のことでベーカリーカマチの人たちに心配をかけてしまったと思うと胸が痛い。

「黒川先生。菜穂ちゃんは娘同然の子なんです。どうかよろしくお願いします。黒川先生と一緒なら私も安心できるわ。店の営業も明日は臨時休業にするように警察から言われてるし、菜穂ちゃんも明日はゆっくりしてちょうだいね」

板垣刑事が言っていたように、今晩ひとりでここにいるのは私も不安だ。さっきは黒川さんが偶然助けてくれたけど、もう次はないかもしれない。

「あの、私……本当にお邪魔してもいいんですか?」

遠慮がちに尋ねると、黒川さんは「もちろん」と優しく頷いてくれた。そしてその後、すぐに顔つきが険しいものに変わる。

「君に少し説教もしなきゃならないしな」
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