授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
聖子は友人の紹介で知り合った今の旦那様である光弘さんと昨年結婚し、すぐに子どもができた。大きなお腹をさすっているその顔はもう母親そのものだ。

それは予想外の聖子からの申し出だった。正社員雇用にこだわって今まで何十社と面接を受けたけど、結果はことごとく惨敗している。こうなったらもう選り好みなんかしていられない。

「やる! 私でよければここで働かせてください!」

藁にも縋る思いで私は椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。

「もうちょっと、菜穂ってばやめてよ。菜穂が店手伝ってくれるならこっちも万々歳なんだからさ、それにうちの家族とだって知らない仲じゃないでしょ? 菜穂が働いてくれるって知ったらみんなすごく喜ぶと思うよ」

ベーカリーカマチは私の卒業した大学のすぐ近くということもあって、当時は週三日のペースで足繫く通っていた。もちろん聖子の両親からも懇意にされているし、婿養子で副店長として働く聖子の旦那様、光弘さんのことも知っている。仕事の環境としてはなんの申し分もない。けれど問題がひとつある。

それは来月から住む場所がまだ見つかっていない、ということだ。新しく住む場所が決まったとしてもここだけで生計を立てていくのは困難だろう。だから掛け持ちでほかにも仕事を探さなければ……。
< 6 / 230 >

この作品をシェア

pagetop