虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
少し離れた場所の机で何か書き物をしているフランツ夫人に目を遣る。
視線を感じたのか、彼女は羽ペンを動かす手を止めこちらを向いた。
「王妃様、どうかなさいましたか?」
「あの、少し教えて欲しいことが有って。その作業が終わってからでいいのだけど」
「もう終わるところです」
言葉通りフランツ夫人はペンを置き、椅子から立ち上がり私の座るソファーの前にやって来た。
念のため周囲を確認する。
メラニーは衣装部屋でドレスの整理をしていて不在。レオナは休日でいない。
問題なしと私は口を開いた。
「国王陛下の子がランセル殿下だけなのは、何か事情が有るのですか?」
「事情と言いますと?」
「珍しいなと思って。身分の高い男性は愛妾がいる場合が多いでしょう?」
公爵も若い内からエルマを愛妾にしていたし。
フランツ夫人は私の質問に納得したようだった。
「先代王妃様を娶る前になりますが、一時愛妾がいたそうです。ただ病で早く亡くなってしまったそうで、それ以降は愛妾は存在しません」
「結婚する前なら本当に短い間しか愛妾が居なかったのね。子供が出来なくても不思議はないか」
「いえ、それがそうとも言い切れないのです」
フランツ夫人の声が小さくなる。
「どういう意味?」
私も声を潜めて聞き返す。
「実は子供がいたという話もあるのです」
「本当に? その子は今どうしているの?」
「不明です。そもそも子供がいたという話の信憑性も高くありません。ですが、全く何も無いのに噂は立ちませんよね? 当時国王陛下は前代王妃様との結婚が決まっていた為、生まれた子は王子と認められなかった可能性もあるのです」