ノクターンⅡ

軽井沢の家族から、パスポートのコピーが送られてきた。

受け取った電話をすると
 

「麻有ちゃん、旅費は どのくらいかかるの。うちの分は いくら支払えばいいのかしら。」

と母が私に聞いた。当然の質問。
 
「お兄様達は 全部出してくださるつもりよ。ママが言っても お金は取らないわよ。」


私が言うと、
 

「でも、そんな訳にはいかないわ。せめて飛行機代だけでも 取ってもらわないと。」

母の気持ちは、よくわかる。

私が母の立場なら同じ様に思うだろう。
 

「智くんに相談して 話してみるけど。心配しないで、って言うと思うよ。いいんじゃない 甘えても。軽井沢の別荘を いつもお手入れしてもらって お父様達も感謝しているから。」


私は、自分が“こちら側”の人間になっている事に気づく。
 

「それじゃ、パパだって気が済まないわ。ちゃんと聞いておいてよ。」

珍しく、母は食い下がる。
 

「軽井沢に行った時に、御馳走してあげてよ。それでいいと思うよ。親孝行な娘を持ったと思ってね。」

私は、笑いながら言う。
 


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