妖しな嫁入り
「そんな未来は訪れないと何度言わせる気?」

 違う。そんなことよりも私が言いたいのは別のこと。聞かなければならないのは――

「わざわざ、あの場所まで行ったの? 明るいのに、妖が出歩くなんて……」

「心配せずとも、日の下だろうが造作もないことだ。そもそも俺たちは人として居を構えている」

「まず心配したわけではないと言わせてほしい。お前たちは、昼でも活動出来るの?」

「当然だ。確かに夜の方が活発にはなるし、そういう輩も多いだろう。だが明るかろうと普通に生活しているさ」

 てっきり狩りは夜の仕事だと思っていた。それなのに、こんな真昼間から平然と出歩く妖もいるなんて……いくら真実を告げられようとも私が昼に出歩くことはできないけれど。

「贈り物に刀とは色気に賭けるが、真に欲する物を贈ってこそ記憶に残るというものだ。良い品が見つかり次第贈ろう」

 朧は楽しそうにいつかの場面を想像している。

「その刃はお前に向けるのに?」

 それでもいいの?
 視線だけで訴える。声にすれば、まるで心配しているようで癪だ。

「情熱的なことだ」

 朧の瞳が妖しく輝く。
 狂っているのは私? それとも朧?
 その返答を狂気的にしか受け止められない私がおかしいの?
 妖にとっては普通の感覚なの?
 とりあえず、私には理解し難い。

「まずは初めての贈り物を大量にしたところだ。今後はいかに印象に残る物を贈って心を射止めるか、それを画策せねばなるまい」

「やっぱり朧の言うことは難しい」

 ため息交じりに呟くと、朧が息をつめる気配を感じた。

「何? 私、何かおかしなことでも言った?」

「君……」

 だからどうしたと訊き返す。

「いや、ようやく名を呼んでくれたと」

「え……あっ――」

 しまった――!! 
 盛大に後悔したところで遅い。

「これはっ、今のは、藤代に言われて仕方なく! 妖狐だと、誰のことかわからないなんて屁理屈を並べるから、つい――」

 後ろめたいわけでもないのに。平静でいればいいのに。朧があまりにも嬉しそうに笑っているから、私は釣られて動揺してしまう。

「なるほど、事情は把握した。後で藤代には褒美を取らそう」

「はあ!?」

「嬉しいものだな」

 その言葉で私は冷静さを取り戻していた。上がっていた体温が一気に冷めた気がする。

「何を言うかと思えば。お前には名を呼んでくれる存在はたくさんいる」
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