妖しな嫁入り
椿の評価(藤代視点)
「今宵の月見酒はさぞ美味いだろうな」

 夕食時に容貌を受け、上質な酒を手土産に赴く。
 屋敷の主人は特等席である縁側を陣取っており、促されるまま隣に座ると早急に酒盛りが始まった。

 仮にも嫁候補がいるのだから彼女に酌をさせればいいものを――

 小さな不満を抱き、わたくしは三日前に紹介されたばかりの少女を思い浮かべることとなる。

「椿の様子はどうだ?」

 まるで心を読まれたかのような絶妙な声掛けはさすがだと言わざるを得ない。なるほど、酒の肴に嫁候補の様子を話して聞かせろと。ですがこちらも調子を乱されたままでは面白くありません。すんなり話して聞かせるつもりは――

「俺が出向いても良い顔をされないものでね」

 ――なかったのですが。朧様の発言には同情せざるを得ませんね。
 あの紹介をしておきながら、それはいかがなものだろう。失礼だなどと彼女に憤るよりも先に、純粋に将来への不安を憶えていた。

「ま、まあ構いませんが。わたくしも聞かせていただきたいものですね」

 交換条件を突き付ければ不思議そうに「なんだ?」と問い返される。
 なんだ、ではありません。何もかも説明不足だと頭を抱える身にもなってほしいですね。そんなわたくしの心情と、これからされるであろう追求がわかっているのか朧様はうんざりした様子だ。

「本当にあの方を妻にするおつもりで? そもそも『妻にする、丁重に扱え』だけでは屋敷の者も混乱しています。わたくしが上手く収めたつもりですが、それにしてもいきなり身元不明の半妖を連れてこられましても……」

「不満か?」

「そうは言っておりません。わたくしにとって朧様の命は絶対です。ただ、ひっきりなしに使用人たちから彼女について質問攻めにされる身にもなってほしいと申しているだけです。多少の愚痴くらい零しても罰は当たらないでしょう」

 あの方は誰?

 朧様とどういう関係!?

 屋敷にやってきて数日と経たぬうちに何度問いただされたことか。その度に曖昧に誤魔化すしかないこちらの身にもなってほしい。まともな説明をされていないと言う点では大差ないのだ。むしろ訊きたいのはこちらの方である。
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