妖しな嫁入り
約束と信頼
 何度も何度も、朧への襲撃を重ねた。
 屋敷で暮らし始めてから今日まで、休んだことはないと言っても大袈裟ではなく。けれど未だに傷の一つも与えられていない。
 藤代は私の技量を褒めてくれるけれど、はっきり言って進展がない。
 どうすれば朧に勝てる?
 たとえ今は勝てないとしても、どうすれば一矢報いることが出来る?
 そもそも朧も傷を負うことがあるのか。そんな考えまで浮かび始める今日この頃。

 今日もまた、もはや日課とも表現出来る襲撃を終え……結果については触れないでほしい。顔を突き合わせて食事している、これが全てだ。
 箸を止めてから、私は気になっていたことを口にする。

「今日はなんだか少し、賑やか?」

 朧も私に倣ってか、ああと呟いて手を止めた。

「屋敷で宴を予定しているからな」

「宴?」

「近辺の妖が集まる。顔を見せ、近況を報告したりな。俺にはそういった義務もある」

「そう」

「実際に集うのは夜だが、ここに大勢集まるとなれば慌ただしくもなる。料理に酒、広間の準備に役割分担……大変なことだ。むしろ主催とはいえ俺の方がたいしてすることはない」

「そうなの? でも、藤代がおもいきり睨んでいる」

 藤代がその通りと言わんばかりのわざとらしい咳払いを一つ。

「椿様、お心遣い感謝致します。ええ、あります。とてもあるんですよ。主催であり屋敷の主なのですからね。そうでなくても朧様は!」

「はいはい、任せきりにしてすまなかったよ」

 なおも続きそうな藤代の小言に朧は肩を竦めていた。そんな二人のやり取りを遠巻きに見つめながら思う。

「つまり、今日は妖がたくさん集まるのね」
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