妖しな嫁入り
「忙しいと皆が言っている。それなのに一人減ってしまった。私のせい、だから私が代わりを務めると言ったの」

「君が?」

 意外そうな声だった。てっきり藤代の差し金だと思っていたらしい。

「私ではあまり役に立たないとは思うけれど、あれは私のせい。だから手伝いたい」

「君のせいじゃない。俺のせいだ」

「何とでも思っていれば良い。私も何とでも思うから」

「そうか……」

 諦めてくれたのか、朧は不貞腐れたように息を吐く。
 あまりに唐突ではあるけれど、言いそびれていたことを告げる機会に思えた。

「そうだ朧。私、まだ言ってなかった」

 あまり後回しにしたくない。遅くなった分だけ気持ちが減ってしまう気がした。

「改まってどうした」

 平静に切り出したつもりが、そうは見えなかったらしい。確かに、少し声が固くなっていたかもしれない。

「助けてくれたこと、ありがとう」

 身構えていたはずが、覚悟を決めてしまえばすんなり零れる。感謝を告げられ軽く目を見開いた朧よりも驚いたのは私の方。だって、こんなに簡単なことだった?

「当然だろう」

「お前の当然は私の当然と違う」

 朧は事もなげに言うけれど。私にとっては初めてのことで、とても信じられないことだった。
 ただ刀を振り妖を斬る――鮮やかさの欠片もなく蘇った虚しい光景。その中で私はいつも一人きりだった。

「誰かに助けられるなんて、初めてで驚いたの」

「……ならば感謝のしるしとして、酌の一つもしてほしいものだ」

「わかった」
「何?」

「だから、構わないと言ったの」

 言葉を噛みしめるように何度も同じ会話を要求され、言い間違いではないと改めて念を押す。酔った妖に溢れているが、至近距離での会話が聞こえないほどの騒ぎでもないのに。

「……気が変わらないうちに今宵、今から頼もうか」

 そう言って、今にも立ちあがりそうな朧。

「あの、今ここでじゃなくて?」

 私の戸惑いは当然だと思う。

「宴、まだ終わってない。夜遅くまで続くと言っていた。お前がいなくなるのは、いけないことだと思うけど……」

 私の困惑も無視して、朧は「知ったことか」とのたまった。

「妻との時間の方が大切に決まっている」

「妻じゃない」

「いいから、行くぞ。傷むだろう?」
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