妖しな嫁入り
夢の終わり
 私が望めば外出を許可すると、あらかじめ朧は藤代に話していたらしい。私がそう望むことなんて、わかりきっていると言われているようで腹立たしかったけれど、信じていてくれることが嬉しかった。朧は私を信じてくれている。最初にかわした約束――逃げないというあの誓いを。

 私は野菊と町に向かっている。今日は天気も良くて楽しみですねと野菊が顔を綻ばせるから……朧への腹立たしさなんてすぐに消えてしまった。
 野菊はどんな動きをしても完璧な影を演じてくれた。さっそく件の団子屋へ案内してくれるそうだ。なんでも持ち帰りはできないが他にもお勧めがあるらしい。
 道すがら、人気がないのをいいことに足元の影へ問いかける。

「野菊は、私が怖ろしいとは思わない?」

 朧は緋月の元へ向かい、もちろん藤代は屋敷に留まっているので二人きり。けれど誰も私たちが二人で外出することを心配していない。逃げないと誓った朧だけでなく藤代も野菊も。ただ「お気をつけて」と声をかけられるだけで、すんなりと見送られてしまった。拍子抜けだ。

「何を怖れることがありましょう。椿様はお優しい方ですもの」

「……そう」

 くすぐったいのは髪が揺れるからだけではないと思う。

 案内された団子屋は噂通り繁盛していた。しかし幸いなことに土産用の列は長いが店内の席は空いている。店内は薄暗さもあり、これなら野菊を戻しても大丈夫だろう。自分だけ食べていては申し訳ない。
 店に入ると死角をついて野菊は人の姿へ戻った。

「お客様、本日は天気も良いですし外で召し上がられてはいかがです?」

 気を聞かせてくれたのだろうけれど、断ることが決まっているので申し訳ない。

「私は中で大丈夫。野菊は外へ行って構わないから」

「椿様!」

 どうしたって私は行けない。野菊まで付き合う必要はないだろうと彼女のためを思ったのに、何故か怒られた。

「お心遣いは感謝いたします。ですが私が椿様とご一緒したいのです。お嫌ですか?」

「拒否する理由はない、けど……」
< 78 / 106 >

この作品をシェア

pagetop