二度目の結婚は、溺愛から始まる

「……乗ります」

「またあとで」


耳元で囁いた蓮に優しく背を押され、ギクシャクした動きでエレベーターに乗り込んだ。

ドアが閉まり、笑いを堪えているような蓮の顔が消え、ようやく我に返る。


(か、会社で、しかもエントランスでキスするなんて、何を考えてるのよっ!? しかも、お祖父さまの目の前でっ!)


燃えるように頬が熱くなり、このままエレベーターで地底奥深くまで運んでほしいと願わずにはいられなかった。


「キスくらいでそんなに動揺していては、先が思いやられるな。あちらでは挨拶なんだろう?」


祖父の呆れたような物言いに、カッとなる。


「ここは日本よっ! お祖父さま!」

「だから、軽いキスにしたんだろう。雪柳くんは、状況判断ができる男だ。仕事にも恋愛にも情熱が必要だが、それだけでは身を滅ぼす。きちんと理性を働かせることができる男でなければ、椿の手綱は握れない」

「手綱って……わたしは馬じゃないわ!」

「そうだな。椿は、馬にたとえるには少々気位が足らん。どちらかと言うと……犬だな。ふむ、なんと言ったかな? あの小さいやつ……そう、チワワだ!」

「ち、チワワ……?」

「ともかく、こういうことは、客観的な立場にいる人間のほうがよくわかるものだ。当人同士は、目がハートになっとるから、何も見えておらん」

(目がハートなわけないじゃないの……なんだか、頭痛がする……)


どうあってもわたしたちを復縁させたいらしい。
祖父は、きっぱり宣言した。


「いいか? 椿。わしの目の黒いうちは、雪柳くん以上の男でなければ再婚は認めんぞ!」


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