二度目の結婚は、溺愛から始まる

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閑静な住宅街にある実家――祖父の父、曾祖父の代から住んでいる家は、純和風だ。

改築や増築を重ねてはいるが、住みやすさを手放さずに昔ながらの趣を残すよう、細心の注意が払われている。

わたしたちは、リビングではなく、祖父の部屋へまっすぐ向かった。

増築した一画が、祖父の住まいだ。

寝室と居間、書斎にキッチンやバスルームなどがコンパクトにまとまっていて、2LDKのアパートの一室が丸々そこにあるような造りになっている。

居間の囲炉裏に火を熾すには時間がかかるため、鉄瓶で湯を沸かす手間を省き、ヤカンとコンロで手を打つことにした。

祖父はほうじ茶好きなので、茶葉を淹れた急須に熱湯を一気に注ぐ。

甘い香りが広がり、懐かしい香りと変わらない部屋の様子に、ほっとした。

子どもの頃のわたしは、祖父の部屋に入り浸りだった。

石灯籠や小さな池、紅葉などの植栽が配置された中庭の景色、骨董品の家具や細々したもの――煙管や薬篭などを描くのが楽しかった。

わたしのデザインに和風のテイストが混じるのは、祖父の影響だ。


(これ……)


食器棚から湯呑を取り出そうとして、水切りカゴにあった不格好な湯呑にふと気づく。

計算された不格好さではなく、あきらかな失敗作のそれは、幼いわたしが自分で作って祖父にプレゼントしたものだった。


(こんなものをいまも使ってくれているなんて……やっぱり、お祖父さま大好き)


厳しく頑固でも、祖父は愛情深く、心優しい人だ。

祖父の分はその不格好な湯呑み、自分の分は来客用の白磁の湯呑みに濃い琥珀色の液体を注いだ。


「久しぶりだから、上手くできたかどうかわからないけど……」


囲炉裏に火を熾している祖父に、湯気の立つお茶を差し出す。


「おお、すまんな」

「お手伝いさんは通いなの?」


家の中はきれいに片付いていたが、しんとしていて、人の気配がしなかった。


「ああ。もうそろそろ来るはずだ。掃除や洗濯をして、食材も用意して晩と朝の料理を作ってくれる。いまでは、毎日掃除が必要な場所は限られているが……」


わたしたち家族が住んでいた時だって、部屋が余っている状態だった。
祖父がひとりで住むには、広すぎるし、寂しすぎる。

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