二度目の結婚は、溺愛から始まる


熱いシャワーを浴びると、ほろ酔い加減も醒め、何とか表面上は落ち着きを取り戻せた。

蓮のTシャツはぎりぎりお尻が隠れるくらいの長さだが、シースルーの襦袢を着ることに比べれば、恥ずかしさは半減する。

どうかもう寝ていてくれますように、という祈りが通じたのか、バスルームから出ると蓮はすでに布団に入っていた。

足音を忍ばせながら隣の布団へ滑り込み、ムードたっぷりの行灯を消し、目をつぶる。

蓮の気配は感じるけれど、身体が触れ合うことはない。
久しぶりに、ひとりでゆっくり眠れるのは嬉しいはずだった。

それなのに、何かが足りないような気がして、落ち着かない。

蓮と同居し始めてから、一週間も経っていない。
そのぬくもりに馴染むには、早すぎる。

ひとりで眠ることにも、蓮がいない生活にも、慣れていたはずなのに……。


(寂しい……はずがないわ。ひとりで眠れないなんて、子どもじゃないんだから。そうよ、久しぶりにベッドではなく、お布団で寝るせいよ)


しっくりくる体勢を求めて何度か寝返りを打ち、それでも一向に眠気が訪れず、羊でも数えたほうがいいかもしれないと思い始めた頃、蓮に呼ばれた。


「椿」


(寝言?)


寝言にしては、はっきりした声だったと思いながら蓮に向き直る。

暗がりの中、蓮が布団を捲り、上体を起こしていた。
差し出された手の意味がわからずに見つめると、溜息を吐かれる。


「こっちへ来い」

「……どうして?」

「眠れないんだろう?」

「そうだけど……でも……」

「椿が寝返りを打つたび、気になって眠れない」

「…………」

「何もしない。一緒に寝るだけだ」


ひとりでは眠れないのを認めるのは恥ずかしかったけれど、蓮が言い訳をくれたのだとわかっている。

自分の布団を抜け出して、蓮の布団に潜り込んだ。

距離を保とうと思う間もなく引き寄せられる。

ぴたりと寄り添う形で抱かれても、窮屈だとは思わない。
むしろ、ほっとした。

蓮も同じように感じたらしい。
安堵したように長々と息を吐いて、呟いた。


「いままで、どうやって椿なしで眠っていたのか思い出せない」


(わたしも……)


たった数日一緒に過ごしただけで、蓮が傍にいることが――こうして抱き合って眠ることが当たり前になっている。

それではいけないのだと思いつつも、心地よいぬくもりと頬に感じる規則正しい鼓動のせいで、急激な眠気に襲われた。


「椿?」

「うん……」


呼びかけられていると認識していても、瞼が重くて目を開けられない。


「もう寝たのか? 早すぎるだろ」


頬を寄せた胸に響く振動で、蓮が笑ったのだとわかった。

伏し目がちで、微かに口角を上げて笑う蓮の顔を思い浮かべ、口元が自然とほころぶ。


「まったく……無自覚で煽るなよ」


蓮は、ぼやきながらも額にキスをしてくれた。


「おやすみ、椿」


幸せな気分で眠りの淵に沈む直前に聞いたのは、いつでもわたしを甘い気分にさせる、優しい声だった。


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