二度目の結婚は、溺愛から始まる

「ないな。そもそも、休みたいと思わないから」

「休みたいと思わない?」


ゆるい大学生活ですら、授業をサボリたいとか、絵画モデルのアルバイトを休みたいとか、そんなことばかり考えてしまうわたしには、理解できなかった。


「ああ。人は……」


蓮は、窓の外へ目を向けて、静かな声で続けた。


「ヒマになるとロクなことを考えない。仕事に没頭すれば、余計なことは考えずに済む。何より……仕事は裏切らない。必ず、応えてくれる」


そう言った横顔がなんだか寂しそうで、胸の奥がぎゅっと引き絞られるように痛んだ。

そんな顔ではなく、嬉しそうな顔を見たいと思った。

この人の笑顔を見たいと思った。


「それなら……わたしが雪柳さんの息抜きになります」

「え?」

「わたしは、仕事のことはわからないけれど、息抜きの仕方は知っています。どちらかと言うと、勉強するより、息抜きばかりしてるんですけれど」

「学生の本分は、勉強だろう?」


眉をひそめ、いかめしい顔をして見せる蓮に、にっこり笑い返す。


「よく遊び、よく学べって言うでしょう?」

「遊んで終わることもあるな」

(ああ言えば、こう言う……なんなの、この面倒な生き物は……)


いちいちツッコんでくる蓮に、イライラが募り、ついお嬢さまの猫を被るのを忘れた。


「いちいち、揚げ足を取らないでください! とにかく、わたしと会うことが、雪柳さんの息抜きになると思います」

「具体的にどう息抜きになるのか、説明してくれないか? 一分以内で、簡潔に」


何もかも忘れて、ひとりではなくふたりで夢中になれるもの。

未だ知らないことも、きっとこの人となら経験できると思った。


「わたしに『恋』をすれば、いいんです。そうすれば、わたしと会っている時は、仕事のことを忘れられます」

「…………」


蓮は、一瞬唖然としたが、大きな溜息を吐く。


「あのな……おまえ、いくつだ?」


いきなりの乱暴な言葉遣いに戸惑いつつも、正直に答える。


「二十二です」

「で、俺はいくつだと思う?」

「十二月の誕生日で、二十七です」


誕生日も、もちろん柾情報でチェック済みだ。


「二十七にもなる男が、大学生のお子さまを相手にすると思うか?」

「人によると思います。わたしの友人には、父親と同じ年齢の恋人がいます」

「それは、恋人じゃなく愛人だろう」

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