二度目の結婚は、溺愛から始まる

「そうかもしれませんが、守備範囲は人それぞれです。ちなみに、雪柳さんの好みの女性は、どんな方でしょうか?」

「大人の女だ」


冷ややかなまなざしは、「おまえは絶対に当てはまらない」と言わんばかりだ。

わたしの負けず嫌い魂に火が点いた。


(負けない……絶対に、負けないんだから!)


「人は、誰でもいずれ大人になります。大人の女性とは、どういう人を言うのか具体的に説明してください。一般概念ではなく、雪柳さんの主観で。一分以内、簡潔に」

「おまえ…………」


蓮は苦い表情でわたしを睨む。


「あ、一分経ちました」


ちらりと腕時計を見下ろし、にっこり笑い返した。


「具体的な例を思いつけないということは……つまり、誰でもいいということですね!」

「……おい。被っていた猫は、どこに置いて来た?」

「そちらこそ、貼り付けていた紳士の仮面はどうなさいました?」


しばし、お互いに一歩も譲らず睨み合う。

張り詰めた空気が漂う中、蓮が俯き、やがて広い肩が小刻みに揺れ始め……笑い声が弾けた。


「ふっ……はっ……くくっ……あっははっ」


周囲のテーブルから、笑う蓮に好奇のまなざしが向けられる。


「雪柳さん、注目の的になっていますけれど?」


しばらくして、蓮はようやく笑いを治め、感想を述べた。


「少々粗いところもあるが、プレゼンとしては上出来だ」

「ありがとうございます。それで、わたしの提案はご検討いただけるのでしょうか?」

「そうだな……『恋』はしないが、息抜きなら付き合ってもいい」


蓮の言葉に、内心ほっとした。

最初から、わたしの思うようにはならない相手だとわかっている。
次へ繋ぐことができれば、十分だ。


「ありがとうございます。雪柳さんが、わたしという息抜きなしではいられなくなるよう、頑張りますね?」

「期待しているよ」

「では……まず、雪柳さんがお好きな画家をお伺いしても?」


相手を自分のフィールドに引き込むこと。

それが、交渉のコツだと祖父から常々言われている。


「蓮だ」

「あの……?」


何を要求されているのか、いまいち把握できずに首を傾げる。


「苗字で呼ばれると仕事を思い出す。忘れさせてくれるんだろう? 椿」


蓮は、紳士であることをやめたらしく、テーブルに頬杖をついてにやりと笑った。

大人の澄ました顔もすてきだけれど、いたずら好きな少年のような顔もいい。

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