二度目の結婚は、溺愛から始まる

心外だとふくれっ面をする蒼に、抗議する気も失せた。


(蒼にまともな感覚を求めるなんて、どうかしてたわ……)


「……とにかく、これ以上わたしと蓮のことに首を突っ込まないで。ただでさえ、外野がうるさいんだから」

「うん。もうしない。けど、さっき椿先輩がうちに来てるってあの人に連絡したら、あとで迎えに来るって言ってたよ。出張帰りに拾うって」

「えっ! く、来るっ!? どうしてっ!?」


思いもよらぬ展開に、動揺せずにはいられない。


「妻と浮気相手が会ったって聞いたら、普通はフォローくらいするでしょ?」

「妻じゃなくて元妻! 浮気相手じゃなく部下っ!」

「どんな顔して来るのか、楽しみだね?」


笑顔でそう言う蒼は、蓮がとことん気に入らないらしい。

元妻とかつてプロポーズした人妻、そしてその夫――。
愛憎劇の題材にもなりそうな顔ぶれに、落ち着いていられる人間がいるだろうか。

蓮がどんな心境でいるのか想像もつかないが……もしも自分が彼の立場だったら、修羅場を覚悟する。

(いくら鉄の自制心の持ち主だとしても、さすがに……)


「どうして余計なことするのよ? 紅さんだって、気まずいでしょ?」

「大丈夫だよ。紅は、先輩とちがって大人だから」


蒼の聞き捨てならない台詞に、むっとする。


「わたしだって、大人よっ! 同い年なんだからっ!」

「うーん。でも、そうは見えないんだよね。どうしてなんだろう?」


わたしをジロジロと眺めまわし、ある一点――厚手のパーカーのためにほとんど膨らみが見えない胸元で目を留めた蒼は、「そうか」とばかりに手の平に拳を打ちつけた。


「蒼。ひと言でも口にしたら、家にストックしてあるチョコレートを強奪するわよ? わたしは、立派な大人なの。わかった?」


蒼は開きかけた口を閉ざし、ごくりと唾を呑み込むと……神妙な面持ちで頷いた。


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