二度目の結婚は、溺愛から始まる

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「椿先輩! こっちですっ!」


すっかり大人しくなった蒼を解放してガレージを出た途端、トングを振り回す緑川くんに呼ばれた。


「先輩のお肉、死守しましたよっ!」


(はぁ……ほんと、いい子。癒されるわ)


緑川くんのような弟がいたら、溺愛する自信がある。


「まずは、オーソドックスなものからでいい? 椿」


緑川くんの隣にいた愛華が、冷えた瓶ビールを差し出した。

クーラーボックスには緑や茶色、さまざまなラベルの瓶ビールがひしめき合っている。
幅広い好みをカバーするために、世界各国各種取り揃えてあるようだ。


「ありがとう、愛華」

「紅さんとの打ち合わせは、上手くいった?」

「うん。あとは細かいところを詰めて、一週間くらいで完成させる予定。できればCG使いたいんだけど、あいにく自前のパソコンがないのよね」

「そっか。ソフトもいるし、ネットカフェで、というわけにもいかないわよね……」

「椿先輩、パソコン買うんですか? だったら、安くしてくれるところ紹介しますけど?」

「ありがとう、緑川くん。でも、もうちょっと考えるわ。別に、どうしてもCGが必要ってわけでもないし……」


手元にパソコンが一台あれば、いろいろ便利だとわかっているが、持ち物を増やすことに抵抗があった。

何かを買うたびに、身体も心も重くなり、身軽には動けなくなる――そんな気がしてしまうのだ。


(一度逃げると、逃げ癖がつくって本当かも)


最初から、逃げ道を用意している自分に気づき、苦い気持ちが込み上げた。


「椿先輩? どうかしましたか?」


緑川くんが、心配そうにわたしを覗き込む。
蒼と四六時中一緒にいる彼は、紅さんに蓮がプロポーズしたことを知っているのかもしれない。

後輩に気を遣わせるなんて、先輩失格だ。


「ううん、何でもない。ちょっと、デザインのこと考えてたの」

「いまは、食べることに集中しましょうよ!」

「緑川くんのお肉の焼き加減は、絶妙よ? 椿」

「じゃあ、さっそくいただくわ」

「どんどん食べてくださいっ!」


ここでウダウダ悩んでいても、何も解決しない。
しばし悩みを忘れて「美味しい」気分を堪能することにした。

鶏、豚、牛、羊。
どれもまちがいなく高級な肉だ。

緑川くんにサーブされるままに食べ、初対面もそうでない人も、入れ替わり立ち替わり、挨拶にやって来る人たちと乾杯を繰り返し、飲んだ。

飲みまくった。

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