二度目の結婚は、溺愛から始まる

なんとなく、キツネにつままれたような心地で蓮の背中を追ってコインパーキングに停められた車に辿り着く。

わたしを助手席に乗せた蓮は、パーキングを出て通りを少し行ったところで車を停めた。


「蓮? どうしたの?」


蓮はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出し、『霧島 梛』の名刺を抜いて、わたしに差し出した。


「……これは、椿が持っていろ」

「でも……」

「仕事で必要になるかもしれないだろ」

「……わかったわ」


蒼の家で出会った時には受け取らなかったが、頑なに拒むのもかえって意識しているようで不自然だ。
素直に受け取って、財布にしまう。

車を停めたのがこのためだったなら、もう発進するだろうと思ったのに、蓮は前を見据えてハンドルを握ったまま、動かない。


「蓮?」

「偶然……だよな?」

「何が?」

「あの男が店にいたのは、偶然だよな?」

「当たり前でしょ。征二さんだって、わたしとナンパ……霧島さんが顔見知りだったのを知らなかったのよ?」

「椿は、アイツの作品を見たことはないのか?」

「ないわ。わたし、あんまりデジタル媒体に興味がないから、名前も知らなかったくらい」

「でも、アイツは椿を知っている」

「はい?」

「白崎の家で会った時、どこかで見かけた気がすると思っていたんだ。さっき、思い出した。カフェ『TSUBAKI』で何度か見かけている」

「え?」

「椿のデザインした店舗が気に入って、通っていたんじゃないか?」

「それは……」


はぁと溜息を吐いた蓮は、いきなりシートベルトを外すとわたしの頭を抱え込むようにしてキスをした。


「んっ……んんっ!」


路地裏とはいえ、人通りがある。
他人にキスシーンを覗かれて喜ぶ趣味はない。

ないけれど……。

強引に唇を割って入り込んだ舌が、上顎をかすめると蓮の胸を押し返す手に、力が入らなくなる。


(気持ちよすぎる……)


誰かに見られることも、いまどこにいるのかも気にならなくなって、もっと触れ合いたい――そう思った瞬間、蓮が身を引いた。


「蓮?」

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