二度目の結婚は、溺愛から始まる


「言っておくが、ホストしてたんじゃねーぞ。あくまでバーテンだ。知り合いに頼まれて、時々ヘルプで入ってたんだよ」

「バーテン……ヘルプ……」

「疑ってんのか?」

「う、疑ってないわよ?」


ギクリとしながらもシラを切る。
梛は、そんなわたしを睨みつけたが、花梨が嬉しそうな声を上げた。


「ねえ、わたし見たいわ! 風見さんのお店では、見られなくて残念だったの」

「いや、見たいって言われても……結婚式で披露するんだぜ? おまえは見られないだろ」

「見られるわよ? だって、蒼くんの結婚式に、わたしも招待されているもの」

「は?」
「蒼くん?」


思わず、梛とわたしは顔を見合わせた。


「蒼くんとは、彼が英国でインターンをしていた時に、彼のお母さまを通じて知り合ったの。それが縁で、白崎邸の改装を相談されて、西園寺建設傘下の業者を紹介したのよ」


(蒼……もしかして、彼女と梛の関係を知ってた……?)


思いつきで行動しているように見える後輩の正体は、腹黒い策略家。
わたしに梛を巻き込む無茶ぶりをして来たのが、単なる偶然とは思えない。


「椿さんと二人でやるなら、きっとすごくカッコイイと思うわ!」

「待てって、花梨。コイツは、バーテンダーとしてもド素人なんだ」

「梛が優しく教えてあげればいいでしょう?」

「簡単に言うなよ……」

「わたし、あれを見て梛にひとめ惚れしたのよ。だから、ぜひもう一度見たいわ」

「…………」


梛は目をつぶり、しばらく天を仰いでいたが、「はぁ」と大きな溜息を吐いた。


「で、おまえは? やりたいのか? 椿」

「そ、れは、その……できるようになれれば、嬉しいし……蒼やゲストに喜んでもらえるなら、やりたいと思うけど……」

「思う、じゃねぇ。やりたいのか、やりたくないのか、どっちだ?」


花梨に向けるのとは百八十度ちがう、冷ややかなまなざしを受け、ぐっと唇を噛みしめる。

やりたくない=できないから、と思われるのは悔しい。
やってみせる前から、無理だと思われているのも悔しい。


「……やりたい」


梛はわたしを見据え、頷いた。


「わかった。やってやるよ。ただし……」

(ただし……?)

「途中でやめると言うのは、ナシだからな」

「もちろんよ!」

「それから、空いてる時間は全部練習につぎ込めよ? アイツとイチャついてる暇はねぇぞ」

「も、もちろん、よ……」

(れ、蓮もわかってくれるわよね……?)

「まずは、三日でロールアップ、ダウン、サム・ロールも含めて完璧にできるようになれ。ボトルとティン、両方で」

「え」

「基本中の基本だ。それすらできないようじゃ、話にならねーんだよ」


早まったかもしれないと思ったが、もう遅い。


「……はい」

「それから……」


梛は、これまで見せた中でもっとも険しく厳しい表情で、宣告した。


「やるからには、ダセぇ失敗なんか絶対に許さねぇ。失敗したら、バーテンダーになるのは諦めるくらいの覚悟でやれ!」


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