二度目の結婚は、溺愛から始まる


結婚式が始まるのは十三時。
十二時を過ぎると、徐々に正真正銘の「ゲスト」が到着し始めた。

会場の入り口となっている蔓薔薇のアーチからほど近いガレージ前で、ウェルカムドリンクをゲストにサーブするのが、本日のわたしの使命その一。

大人には軽い口当たりのシャンパンを、子どもにはジュースと一緒に蒼がデザイン・特注した『猫耳』を手渡す。

人懐こい猫や人見知りの猫。元気いっぱい駆け回る猫。
さまざまな猫が庭のあちこちに出現している。

ふと、ドリンクを受け取る人の波が途切れたところで時計を確かめれば、あと十分で十三時になろうとしていた。


(そろそろ、終わり……?)


結婚式のすべてを取りまとめ、仕切っている緑川くんは、蔓薔薇のアーチの傍でゲストを出迎えている。

状況を確かめるべく、彼に呼びかけようとしたちょうどその時、新たな二人連れがアーチを潜って現れた。

チャコールグレーのスリーピーススーツに、シルバグレーのアスコットタイをした背の高いイケメンは、蓮。
シンプルなミモレ丈のグリーンのワンピースを上品に着こなす美女は、花梨。

正装した二人は、とてもお似合いだ。

そんな二人の姿を目にした梛が、ぼそっと呟いた。


「なんでアイツと一緒に来てるんだよ……」

「梛の知らない誰かといるより、蓮と一緒の方が安心でしょう?」


梛は、フレアを披露する流れでドリンクバーを手伝うため、花梨をエスコートできない。

ひとりで出席するという彼女に、蓮と一緒に来たらどうかと勧めたのは、わたしだ。

現在、彼女は柾が紹介した医師のもとで治療を進めている。
幸い、治療に伴う副作用は軽い症状に留まっているようだが、事情を知っている人間と一緒のほうが、何かと心強いはずだ。


「あいつが役に立つとは限らないだろ」


梛は小声で文句を言うが、蓮から花梨を奪い返しに行くような素振りは見せない。


(まったく、素直じゃないんだから……)


蓮と梛は、顔を合わせればいつだって、遠慮なく言いたいことを言い合っている。
お互い、相手のことが気に入らないと公言して憚らない。

けれど、そんな態度を取れるのは、「素」で接するほどに気を許している証拠だと思う。

きっかけさえあれば、いい「友人」になれるはず。

どうにかして、二人を仲良くさせられないものかと頭を捻っている間に、蓮と花梨が目の前までやって来た。

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