二度目の結婚は、溺愛から始まる


「俺は、そろそろ引き上げるよ」


美味しい朝食のお礼に食器を洗っていると、柾が帰ると言い出した。


「え、あ、ちょっと待って! 洗濯した服が乾くまで……」


いくら車での移動でも、バスローブ姿――下着すら着けていない状態で、外へ出るのはためらわれる。


「着替えなら、持ってきた。玄関に置いてある」

「もう! それならそうと早く言ってよ!」


慌てて玄関へ向かおうとしたが、柾に止められた。


「急ぐ必要はない。ゆっくり蓮とイチャついていればいい」

「え?」

「俺は、今日から二週間ほど、海外出張で留守にする。その間、おまえの面倒は蓮が見てくれることになった」

「……いま、なんて……言ったの?」


信じがたい情報に、わたしの頭は理解を拒否する。


「ちゃんと蓮の言うことを聞いて、大人しくしてろよ」

「え、え、ちょっと待って! なんで、どうして? 蓮じゃなくて、お母さまのところか、お祖父さまのところでも……」

「いま、母さんたちは山奥のコテージに住んでいるし、退院したばかりのお祖父さまに心労は禁物だ」

「心労って……わたしを疫病神みたいに言わないでよっ!」

「おまえが、ひとつも問題を起こさずにいられるわけがないだろうっ!? 何かあった時に、すぐに対処できる人間が必要だ。蓮は、おまえの行動パターンも思考回路もよくわかっている。蓮以上の適任は、いない」

「でもっ! だって……蓮が…………イヤかもしれないじゃないの」


(酔ってストリップを披露するようなイタイ女――しかも別れた元妻の面倒を見るなんて、わたしが蓮なら絶対に断る……)


ところが、蓮はあっさり承諾した。


「イヤではない。むしろ、喜んで引き受ける」

「え?」

「というわけで、問題はないな。椿を頼んだぞ、蓮」

「ああ」

「くれぐれも、蓮に迷惑をかけるなよ? 椿」


あっけに取られている間に、強引で横暴な兄は去り、玄関のドアが閉まる音で我に返った。

「蓮! 何を考えているのよ?」


いつの間にか、すぐ後ろに立っていた蓮を振り仰ぐ。


「いろいろ」

「いろいろって……こんなの、おかしいじゃない! わたしたちは、別れてるのに」

「お互い特定のパートナーもなく、独身なら、何の問題もないだろ」


肩を竦める蓮の仕草に、ぐちゃぐちゃになった感情が爆発した。

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