二度目の結婚は、溺愛から始まる

「問題は、あるわっ!」

「何が問題なんだ?」

「それはっ……」


言い淀むわたしの唇に、蓮の唇が触れた。

初めは軽く、優しく。

こんなことをしてはいけないと訴える理性の声は、三秒で消えた。

優しく穏やかなキスは、何度でも味わいたくなる甘さだ。


(蓮のキス……気持ちよすぎる)


「問題は、ないだろ?」


さんざんわたしをうっとりさせた蓮は、唇を離して真剣な表情で見下ろす。


「終わったものは、やり直せない。だが……最初から、もう一度始めることはできるはずだ」

「最初、から?」


ぼうっとした頭が、不穏なものを感じて警鐘を鳴らす。


「もう一度、椿と付き合うところから始めたいんだ」

「付き合う? ……よく……わからないんだけど」

「難しく考えなくていい。まずは、一緒に出かけよう。俺も椿も、気分転換が必要だ」

(ちょっと待って……離婚した元夫ともう一度付き合う? 出かける? 何かが、おかしくない?)

「でも、仕事は?」

「今日は日曜だ。最低限、土日のどちらかは休むようにしている」


混乱している頭を整理する時間が欲しくて、蓮の優先順位第一位にあるものを持ち出したが、思いがけない答えが返って来て余計に混乱した。


「休んで……いる?」


わたしの知る蓮には、「週末」や「休日」なんてなかった。


「休まないと、柾に怒られるからな」


涼から聞いた話を思い出し、思わず広い胸に手を当て、規則正しい鼓動を確かめた。

そんなわたしの仕草に、蓮が苦い笑みを浮かべる。


「聞いたのか? 死にかけたって」

「……もう、大丈夫なの?」

「椿がいてくれるなら」


蓮は、まるで明日の天気の話でもしているような軽さで答えた。


「ごまかさないでっ! ちゃんと病院に行ってるの?」

「医者じゃなく、椿が必要なんだ。椿がいないと息ができないから」


真顔で言われ、頬が熱くなる。


(なんてこと言うのよ……)


「俺の寿命が心配なら、一緒に出かけて、息抜きさせてくれ。それとも、別の方法で息抜きさせてくれるのか?」


にやりと笑った蓮は、顔を下げわたしの首筋に唇を寄せた。

同時に、熱い手が太ももを這い上がる。


「ちょっ……やめっ……ダメッ! で、出かけるからっ!」


わたしの言質を取った蓮は、不埒な手を引っ込めた。


「どこか行きたいところは?」

「急に言われても、思いつかないわ」

「それなら、俺の趣味に付き合ってもらおうか」

「いいけど……」


(休むことを覚えただけでも驚きなのに、趣味を持つまでになったなんて……)


「文句は言うなよ?」

「……言わない」


七年前とは別人のような蓮に戸惑いながら、頷いた。

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