怪化視浄華鈴記
櫻が咲き始める弥生の頃
「数鈴、早く寝なさい。明日は都へ向かうのだから朝が早いよ。」
都。 御国の東に位置する文化が栄えた場所。 幕府のお殿様も住んでおり、人の出入りが多く、活気溢れた所です。
「はい。分かりました父上。お休みさなーい。」
「はい。お休み、数鈴」
(父上はまだ都に行くための準備が残っているから大変だな。 そうだ。寝る前に...。)
数鈴は寝床に着く前に、仏壇の前に行き、手を合わせました。
「母上、お休みなさい。明日、都に行きます。母上の故郷ですよ。 仕事で色んな所をまわると父上が仰っていました。その時に踊り子さんも見に行こうと仰っていました。踊りを見るのがとても楽しみです。」
数鈴の母親は五年前に病気で亡くなっていました。
母親が亡くなる前は母親が神主をしており、父親は別の仕事で滅多に家に帰ってきませんでした。 母親が亡くなった後、数鈴を育てる為、前の仕事を辞め、神主の仕事についたのでした。
(そういえば...。父上からも母上からも父上の前の仕事について何も聞かされていないな。 何でだろう...。 そんなことよりも早く寝なくちゃ。起きられなかったら大変だもの。)
そんなことを考えながら、数鈴は布団に入りました。