熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「わかったなら、早く厨房から出ていけよ。俺はひとりでここを任されてるし、お前と違って、すごーくすごく忙しいんだ」
プイッと顔を逸らしたちょう助は、憎まれ口を叩いても可愛らしい子供だった。
それにしても宿の厨房を、小さな男の子ひとりが担っているなど現世では到底有り得ない話だが、ここではさしたる問題でもないのだろう。
(ってことは、あのまご茶漬けも……)
きっと、ちょう助が作ったものだ。
つまり昨日花が食べた食事も、これから花が食べるものもすべて、ここでちょう助が作って出すということに違いない。
「俺は、これ以上お前と話す気は──」
「ちょ、ちょう助くんの作ったご飯! すっっっごく美味しいね!」
「……は?」
唐突に口を開いた花に対して、ちょう助は怪訝な顔をする。
「い、忙しいのにごめんね。でも、どうしても、それだけは伝えたくて……。あと、できることなら、ちょう助くんに相談したいことがあるんだけど……」
遠慮がちに口を開いた花は、ようやく本題を切り出すことに成功した。