熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「俺は、人が嫌いなんだよ」

「人が……嫌い?」

「そうだ。だから、お前とも話したくないし、早くここを出ていってほしいと思ってる」


 思いもよらない言葉に、花はごくりと息を呑む。


「どうして八雲さんは、寄りにもよってお前みたいなのを嫁候補にしたんだろう……。洗ってもいない手で調理場を触ろうとするし、うるさいし、面倒くさそうだし……。本当に、最悪だ」


 言い終えてそっぽを向く様は、花の中でのいけ好かない男ナンバーワンの八雲の姿を思わせた。

 ただ、八雲と違ってちょう助は怒っても可愛い、などとは口が裂けても言えそうにない。

 黒目がちな瞳とクリっとした目元にはあどけなさが残り、憎まれ口を叩いたところで冷たさまでは感じさせないが、さすがに初対面で「最悪」まで言われるとは予想外だった。


(っていうか、人が嫌いって……)


 花は呆然としてしまい、返す言葉が見つからない。

 八雲はさて置き、ぽん太や黒桜、鏡子といった付喪神たちには見られなかった反応だ。

 本来であれば人に使われる道具である付喪神が人嫌いとは、一体どんな道理だろう。

 
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