熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「虎之丞さんがどうこうのと言うよりも、あなたがそんなだから、前の仲居さんだった付喪神様は嫌になってここを辞めたのでは? 従業員を守れない主人など、主人失格だと私は思います」
「何……?」
「それに、仮にも私はあなたの嫁候補ですよね? 嫁になるかもしれない相手にそんな横暴な態度を取るなんて、ただただ最低の一言です!」
こうなったらもう、花の口は止まらない。
「私でなくとも、あなたの妻になりたいなんて人は現れないわ。っていうか、あなたみたいにいけ好かない男の妻になんて、頼まれたって首を縦には振ろうとは思わない!」
捲し立てるように言った花は腕を組み、「ふんっ!」と豪快に鼻を鳴らした。
そんな花を前に、八雲は虚をつかれたように固まってしまい、言葉を返すことすらままならない。
「もういいです。一瞬でもあなたに頼ろうと思った私がバカでした。自分ひとりで考えます! そういうわけで、私は忙しいので失礼します!」
そうして花は留めとばかりに捨て台詞を吐いてから、ひとりでその場をあとにした。
カポーン!という、ししおどしの音が虚しく響く。
嵐のように花が立ち去ったあと、八雲はしばらく固まったまま動くことができず、静寂の中にひとりぽつんと取り残された。
♨ ♨ ♨
「はぁ〜〜〜……どうしよう」
重苦しい溜め息が、周囲の空気を湿らせる。
朝一の仕事を終えた花は用意された朝食を食べると、ひとときの休憩時間を貰い自室へと戻ってきた。
あのあと花は、ぽん太と黒桜に事の顛末も説明したものの、これといった解決策を見つけることはできなかった。
ちょう助に関して言えば、ふたりは人嫌いであることを知っていたようで、不安が的中したといった様子でもあった。
挙げ句の果てには、『とりあえず、焦らずじっくり考えよう』と言う始末だ。
地獄行きがかかっている花には、そのふたりの言葉は他人事のようにしか聞こえず、余計に気を揉むばかりだった。