熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「大丈夫じゃ。わしが一緒についていこう」

「ぽん太さんが?」

「ああ。付喪神であるわしが一緒なら、現世へ向かう途中で道に迷うこともないし、熱海の街を案内もしてやれる」


 ぽん太の言葉に、なるほど……と花は一瞬納得しかけたが、すぐにはたと我にかえると、改めて自分がぽん太と出会ったときのことを思い出した。


「でも、ぽん太さんがその姿でウロウロしてたら流石に目立つし、みんなを驚かせることになっちゃいますよ!」


 二本足で歩く、しゃべるモフモフのたぬきである。

 熱海サンビーチで初めてぽん太に話しかけられたときも花は腰を抜かしかけたが、それが白昼堂々と熱海のまちなかに現れたらそれこそ大問題になるだろう。


「ふふん、花、お前さんはわしをなんだと思っとるんじゃ」

「え……」


 だから、二本足で歩くモフモフのしゃべるたぬきだろう、と花は思う。


「お前さんは、かの日本昔ばなしを読んだことはないのか。わしは、たぬきじゃぞ? 人に化けることなど造作もない。ちょちょいのちょいの、朝飯前じゃ」


 そう言うとぽん太は背中に背負った編笠から葉っぱを一枚出して、頭の上にちょこんと乗せた。

 そして両手を合わせてピョン!と飛び跳ね、体操選手さながらの見事な前宙を披露する。


「わ……っ!」


 と、同時に、またボフン!と白い煙が立ち上った。

 煙が晴れた中から現れたのは、腰の曲がった小さな老人である。


「フォッフォッフォッ、どうじゃ、たまげたろう」


 目の周りは黒い。

 つるんとした頭皮には髪の毛が僅かに生えていて、服装は品のある和服という出で立ちだった。

  
< 124 / 405 >

この作品をシェア

pagetop