熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「ほ、ほんとにぽん太さんですか!?」

「いかにも。これなら誰も、わしがたぬきの付喪神だとは思わんじゃろ」


 ぽん太の言うとおり、少し背は小さいような気もするが、今、目の前にいるぽん太は、どこからどう見ても人にしか見えなかった。


「わしはこうしてよく人に化け、現世に遊びに行くんじゃよ」

「え……でも、それならどうしてあのとき、サンビーチではたぬきの姿のままだったんですか?」


 花が初めてぽん太と出会ったのは夜の熱海サンビーチの遊歩道だ。

 あのときぽん太はモフモフのたぬきの成りをしており、突然話しかけられた花は、悪い夢でも見ているのかと慄いた。


「あのときは夜じゃったし、あんな寒い日に海を散歩しようなど、誰も思わんじゃろと思うておったんじゃ。人の姿に化けるよりも、たぬきでいたほうが気が楽じゃしの〜」

「そ、そういうものなんですか?」


 フォッフォッと身体を揺らして笑ったぽん太は、「では」と編笠を頭に被る。

 
< 125 / 405 >

この作品をシェア

pagetop