熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「今日の宿泊を、一同揃って楽しみにしていたのだ」


 イケメンの柔らかな笑顔を受けた花は一瞬薙光に見惚れかけたが、また慌てて我にかえると「ありがとうございます」と答えて背筋を伸ばした。

 なるほどこれは、虎之丞とはまるで違う──と、比較するのは虎之丞に対して失礼極まりないが、眉目秀麗で風格も威厳もあるのに物腰まで柔らかいとは反則だろう。


「薙光殿、どうぞお先に」

「ありがとう。皆も今日はゆるりと、日頃の疲れを癒やしてくれ」

「ははっ、有り難き幸せにございます!」


 つくもの敷居を跨ぐ直前、五人の男たちがさっと前を空け、薙光に道を譲った。

 この上、人望まで厚いときたら、欠点が見当たらない。さすが国宝様というところだ。


(落ち着け、私の心臓……。いつも通りで、大丈夫)


 改めて薙光が国宝であることを意識した花の緊張は高まったが、花はグッと拳を握りしめると足を一歩前に踏み出した。

 
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