さよならが言えなくなるその前に
BAD DAY

演歌なおんな





プァー。



甲高い列車の汽笛。



改札から吐き出される人の波。




金曜日の夜の駅は、いつもより人が多くて、




雑踏の声がうるさい。




一週間から解放された




はしゃいだ空気が、そこかしこに漂っていて。




その空間から、早く抜け出すかのように




立花優香は足早になる。



24歳。



ゼネコン会社の現場事務、調達部門で



働いているOL。



顎ラインから緩くパーマのかかった



栗色の髪の毛が肩で揺れる。



目尻が下がった大きめの目は、



伏せられていて。



カールした長い睫毛に縁どられたその瞳は、



表情豊かに



不機嫌さを映し出している。



少し小ぶりな鼻に、



ポヨンとした弾力のある唇。




白のタートルネックセーターに




ネイビーのロングフレアスカート。




それにスッキリしたシルエットの



淡いベージュのチェスターコートを



羽織っている。




駅のロータリーを抜けて




優香が速足で進む前方に、



大木を囲むように作られた円形の花壇。




その周りに備え付けられた



ベンチに腰かけ、



たむろする若い子たち。




全身真っ黒で、



ごついアクセサリーが



首から下がっていたり。



なんでそんな苦しそうな絵ガラ?



っていうような生地がド派手な



ゴールドなパーカー姿だったり。



一言で言うと




ガラがものすごく悪い。




なので、そこの周りだけ人がいない。




普段なら、優香も避けて通るのだけど、



今日はそんな心の余裕もなく、




そのまま 






その横を通りすぎようとした。


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