さよならが言えなくなるその前に







焦る気持ちとはウラハラに




翔輝の腕は物理的には



わたしを捕らえてなんていないのに



わたしは




翔輝の瞳に



しばられてるみたいに 




動けないなんて




やばい。やばい



ヘビに睨まれたカエルかよ。



こんなスキ見せたら…





肉食翔輝に




…食われちゃうよー!!




優香を見下ろす翔輝が




ささやくように言った。




「もっかい言って」



「え?」



「名前



もっかい呼んで」




そう言って親指で、



優香のくちびるにふれるから




も〜、も〜



そんなうるんだような瞳でっ




かすれた声で…



ゴツい指で



っ誘惑しないで〜っ。



顔を赤くして優香は



ギュって口を結んで




「……言わないっ!」



頑張って、言った。



その怒ったみたいな表情に



負けない!



って宣言するみたいな口調に、





翔輝は……




「っはははっ」




「何だよ。ケンカでもする気かよ」



そう言って、



瞳を線にして笑うから




その翔輝のかわいい笑顔に




優香は



何か気持ちがいっぱいになったみたいに



胸がつまった。



中学生みたいに




口がきけなくなっちゃうなんて



私ってば何



どうなって



そんな



こんがらがってしまっている優香。




なのに、翔輝は




そんな優香を見て



キュって



優しく



優香の、鼻をつまんで



「次は逃さねえからな」



ちょっとだけ



くちびるの端を曲げて、そう言った。




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