楓彩る頃思ふ

始業式の日に





『…今年も桜が綺麗に咲いたなぁ…』



そんなことを呟きながら、桜の咲き誇る木へと顔を向け目を瞑る。

こうすると、春風を強く感じることが出来る気がして…それと同時に、新しい一年が始まると言うことに胸を弾ませることが出来る。

新しい一年が始まる、私は二年生になるのだ。



「円ちゃんおはよー!」

『…雪菜さん、おはようございます』



私に元気よく挨拶してくる彼女…宮島雪菜(みやしまゆきな)へと返事をすれば、嬉しそうににこっと笑みを向けてくる。

彼女は私の通う学校での人気者、と言った存在で。

目立った動きなどしようともしない私にさえこうして声を掛けてくれるような、優しい人だ。

その優しさを目の当たりにしても、心を開こうとしないでいるのを知られれば…きっと贅沢だと、周りからは文句を言われてしまうだろう。

可愛らしくもあり綺麗でもある美形な雪菜さん。

運動神経も良く、弓道部に所属しており…頭も良く、テストでは必ずかのように上位を保ち続けている。

嗚呼まるで、愛されるために生まれてきたような人。

私は捻くれているのかもしれない、そんな彼女を好きになれないから。



雪菜「今年もクラスメイトになれると良いね!」

『そうですね』

雪菜「うん!同中なの、円ちゃんだけだからさ〜!もっと仲良くなりたいなぁ!」



中学の時から同じなのも、羨ましいと言われることだ。

きっと、羨ましいと思うのが当然で…私のように、否定的な感情を持つのがおかしいに違いない。

自覚はあっても、今更それを変えることなど…出来やしないのだ。



雪菜「クラス名簿見に行こー!」

『先に行っててください、少し見たいものがあるので』

雪菜「あれ、そう?分かった、じゃあ先に行ってるねー!」



私に大きく手を振りながら、走り去っていく姿は本当に素敵だ。

分かっているのに、心の奥底に眠っている…どす黒い感情が、出て来てしまいそうになる。



─────…嗚呼、恨めしい、憎らしい。



…どうにか捨てたい、こんな感情など。

普段は奥底に眠らせているこの感情が、表に出て来てしまった時が怖いのだ。



『…大丈夫、今年も頑張ろ…穏便に、静かに…』



誰にも悟られず、一人で居よう。

私は彼女と関わりたいと言う気持ちなどないのだ、出来るものならば…ずっと、一人で居続けたい。



『ぼっち上等』



一人で居る楽しさを知ってしまったら、もう戻れない。

高校に入って以来、それを改めて自覚せざるを得ないほど…私には友達が出来なかった。

まあ、仕方ないか…なんて、もう他人事だ。



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