エリート御曹司が花嫁にご指名です
 そんなある日、突如汐里が退職願を出した。

 先々まで行き届いた気配りがある汐里が秘書だと、仕事がはかどる。彼女が休んだ日は、書類や後回しになるメモが増えていく一方だ。

 俺の癖や好みをわかってくれているのは汐里だった。そのことに甘んじていたのかもしれない。

 おずおずと差し出された退職願に、俺は手を伸ばせなかった。

 受け取らないでいると、デスクの上に置かれた。あのとき、衝撃的な喪失感に襲われた俺だった。
 
 退職願を保留にした週末の間、俺の気持ちは落ち着かず、上の空だと母親に嫌味を言われる始末。
 
 待ちに待った週明けの月曜日。汐里はいつもよりも地味なグレーのタイトスカートに、シンプルなブラウスで出勤した。
 
 緊張しているのか、表情はこわばり、顔色が悪いように見えた。そんな汐里を気にしながら、朝の挨拶をする彼女に早速声をかける。

 一刻も早くこの件を解決したかったのだ。
 
 俺は席を立ち、ソファに移動するとドカッと腰を下ろし、足を組んで彼女を待った。
 
 汐里は自分のデスクの上にバッグを置き、俺の対面に腰を下ろした。
 
 いつもながら着座の姿勢は、秘書の見本のように綺麗だ。膝頭をピタッと合わせ、膝下から足先までを斜めにさせている。

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