エリート御曹司が花嫁にご指名です
「いいんです。では失礼します。優成さん、ちょっと」

 壮二は病室を出ていく間際、俺を呼んだ。廊下に出て壮二が口を開く。

「しおりんは? ドレスショップへ行っていたのでは?」
「そうだが」
「はあ~。ここは俺に任せてくれればいいんです。紹介した手前、心配だったのはわかりますが。早くしおりんの元へ行ってください」

 俺の返事に、壮二はあきれたため息を漏らした。

「わかっている。じゃあよろしく頼むよ」

 壮二が去って行く後ろ姿を見て、俺は病室へ戻った。

 朝香はこれから二週間は職場と病院の往復だろう。仕事量を調整してもらうように彼女に告げ、俺は病室を後にしようとした。

 子供は俺を見送ると言い、車椅子に乗って廊下に出た。

 別れ際の廊下で、子供は俺のことを『パパ』と呼んだ。壮二に続いて俺もか、と苦笑いを浮かべ、屈託なく笑う子供の頭に手を置いた。

「しばらく痛いが、治っている証拠だからな。先生やママの話をよく聞くんだぞ」

 俺はそう言葉を彼女の息子にかけ、病院を後にした。

 そして車に向かいながら、汐里のスマホに電話をかけた。しかし、着信音が鳴るばかりだ。
 
 気づかないのか、電車なのか……。
 
 ドレスショップへ電話をかけると、一時間ほど前に店を出たとのことだった。

 予定がなくなった汐里は、友人と会う約束をしたのかもしれない。

 俺は病院の駐車場から車を出庫させ、会社に向かった。


 そして、その日から汐里は俺の前から姿を消した。


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