エリート御曹司が花嫁にご指名です
「親父、そんな話は汐里に失礼だろう?」

 彼の声色は一段低く聞こえ、その場の空気を引き裂くような音がした気がした。そう思うのは私だけなのかもしれないけれど。

 社長はまったく場の空気がわからない様子で、ニコニコ笑って私に謝る。

「そうだったな。汐里さん、すまなかった」
「い……いいえ。……そ、そんなこと……」

 私は桜宮専務の言葉にショックを受け、不覚にも動揺した返事をしてしまった。

「汐里も驚きすぎて困惑している」

 桜宮専務はそっけなくウーロン茶を飲んでから、ナイフとフォークを手にして再び食べ始めた。


 その週の木曜日、秘書室にいた私に一階ロビー受付から電話が入る。

『桜宮専務にお会いになりたいと、大塚(おおつか)さまとおっしゃる女性の方がいらしているのですが。先日助けてもらったとかで……』

 受付の社員は少し当惑した様子だが、それよりも私の頭は、先日桜宮専務が負った怪我を思い出していた。

「確認してみますので、待たせてください」

 受話器を置き、専務室へ内線をかける。

『はい』

 桜宮専務の静かな声が聞こえてくる。

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