エリート御曹司が花嫁にご指名です
 私は首を横に振った。

「困る、と……」

 桜宮専務の反応を思い出すたびに、ため息が漏れる。

 お盆明けにもう一度話すとなると、辞める時期がさらに延びてしまうということだ。

「そうよね。他の秘書たちでは、汐里さんのように完璧にこなせないもの。でも、なぜ? さっきも言ったけれど、うちより条件のいいところなんて滅多にないわよ?」
「就職をするわけではないんです……」
「え? それは……結婚?」

 びっくりまなこの三和子さんに、私はふふっと笑みを漏らす。

「近いです。まだ相手はいませんから。お見合いをして結婚したいんです」
「お見合いっ? 汐里さんなら声を……うちの社はダメね」
「はい。大々的に恋人募集なんてできませんし。私、赤ちゃんが欲しいんです」

 ときどき見かけるベビーカーや、母親に抱っこされている赤ちゃんに胸が疼く。

 ここ最近、日増しにそうなっている。女性のホルモンがそうさせているのだろうか。

「赤ちゃんを?」
 
 唖然となる三和子さんは、「ふう~」と吐き出し、コクンと頷く。


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