エリート御曹司が花嫁にご指名です
 三和子さんと退勤後に会ったのは、翌日の木曜日。

 私たちは渋谷に出て、何度か訪れたことのある肉バルで夕食をしている。
 
 テーブルの上にはスペアリブやシーザーサラダ、そして中ジョッキのビール。
 
 昨日、鰻を食べたおかげで、食欲や体調が回復しているようだ。

「どうしたの? 話があるんでしょう?」

 そう言って、三和子さんは冷えてジョッキに水滴のついたビールをゴクッと喉に通す。

 私が誘った時点で、勘のいい三和子さんは気づいていたようだ。

「はい。私、退職願を出したんです」

 唐突に切り出された三和子さんはびっくりした様子で、ジョッキをドンとテーブルに置いた。

「今、なんて?」
「会社を辞めようと思っているんです」

 私は対面に座る三和子さんの顔を見て、はっきり口にした。

「ちょっと! 寝耳に水よ? どうして辞めたいの? こんな働きやすい会社、他にはないわよ」
「もちろん、それは承知しています」
「で、桜宮専務は? あー、冷静にならなきゃね」

 三和子さんはグビグビとビールを飲む。ジョッキの中身はすっかり少なくなっている。

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